インタビューと論文特集 

ケニス・コジック教授とタール・シャーフ博士へのインタビュー

著作権はGabriel Luna, Kosik Lab official webpage, https://ken-kosik.mcdb.ucsb.eduに帰属します。

タール・シャーフ博士、ケニス・コジック教授らは、“Human brain organoid networks”と題する最新の研究成果のプレプリントを発表し、改訂作業中です。この研究は、オルガノイド内の神経回路の生理的挙動を探ることを目的としており、ヒトの脳オルガノイドは、十分なサイズ、細胞配向、機能的結合性を有する自己組織化された神経細胞集合体であり、その集合的膜貫通型電流から共活性化し電界電位を発生させ、スパイクアクティビティにフェーズロックすることを実証しています。これらの結果から、精神神経疾患、薬物メカニズム、外部刺激による神経細胞ネットワークへの影響などの研究に対する脳オルガノイドの可能性を明らかにしました。ヒト脳オルガノイドの素晴らしいケンとタールの研究について伺いました。また、どのようにMaxOne が彼らの研究に役立ったかも分かりますので、ぜひお読みください。

イタンビュー参加者の紹介


Prof. Kenneth S. Kosik
Principal Investigator
UC Santa Barbara
California, USA

Dr. Tal Sharf
Postdoctoral Researcher
UC Santa Barbara
California, USA

Dr. Marie Obien
CCO
MaxWell Biosystems
Zurich, Switzerland

インタビュー


ケン、タール、こんにちは!このインタビューを受けていただいて、とても興奮しています。まずは、お二人の研究グループの科学的な興味/関心についてお聞かせください。

私たちは、医学的な問題に応用できるだけでなく、基礎的な神経科学の両方へのトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)に大きな関心を持っています。MaxOneのおかげで、この2方向性で進めることができました。

MaxOneが世に出た同じ時期に、私たちのラボでは脳内オルガノイドの培養を始めていて、2つの技術は収斂していきました。MaxOneを使って解離した培養物の活動を記録していくうちに、さらなる探求の方向性が見えてきました。私たちがオルガノイドに重点を置いたのは、脳の配線、遺伝学、創薬に関する疑問について多くの可能性を開くためでした。オルガノイドは、他の方法では得られない脳回路へのアクセスを可能にしました。

最近発表されたヒト脳オルガノイドに関するbioRxivのプレプリントについて、ぜひお聞かせください。この研究の重要な貢献と、MaxOneがどのような役割を果たしたかを教えてください。

オルガノイドは、細胞の構成や発生がヒトの脳と似ていることが知られています。しかし、オルガノイド内の神経細胞ネットワークの機能的挙動については、ほとんど理解されていないのが現状です。私たちがMaxOneに強く求めていたことのひとつは、ブロードバンドシグナルを捉えることです。 つまり、LFP(局所電界電位)も捉えつつ、オルガノイド内のスパイクを驚くべきことにミリ秒の時間分解能と高い空間分解能で見ることができたのです。スパイクとLFPの相互関係は、脳のエンコーディングを研究する動物実験を長年行ってきた人々にとって非常に重要なものでした。このような位相同期(フェーズロッキング)については長い文献があり、MaxOneを使用することで関連するデータを取得することができます。

MaxOneは素晴らしいプラットフォームであり、多くの可能性を引き出してくれます。神経活動の同期を比較するために使用することができ、信号はLFPとスパイクに分解することができます。これらの信号を分析することで、ヒトの組織がどのように機能的な表現型を再現しているのかを理解することができます。私たちの研究では、MaxOneを用いることで、オルガノイドの生理学的な表現型を明らかにするロードマップを作成し、私たちが取り組みたいダウンストリーム研究へと自然に導いています。これにより、ヒトの組織における神経発達障害のベンチマークや、マッピングされた表現型を用いて病態に介入する薬理学的化合物のスクリーニングなど、多くの道が開かれました。

神経細胞ネットワークの活動を大規模に獲得することで、表現型に利用できる様々なパラメータを抽出することができたのですね。高解像度MEAでしか抽出できない(他の技術では不可能な)重要な新規パラメータがあれば、詳しく教えてください。

以前は低解像度のアレイを使っていました。この技術ではかなりの面積をカバーできますが、機能的な領域にアクセスできないのが問題でした。MaxOneとその追跡機能により、ネットワークへのアクセス方法が変わりました。機能的なネットワークにアクセスし、関心領域を特定し、活動電極を選択し、スパイクソーティングと推定単一ユニットを特定し、ユニット間の統計的関係を見ることができました。シナプス結合と思われる短時間の潜在的なインタラクションを特定することで、ユニット間で起きている確率分布を見ることができるようになりました。

以前、シンユエ・ユアンらが短時間での相互作用について2次元培養で報告したもの(2020, Nature Communications) と同様の実験をオルガノイドで行い、接続強度の分布を見ることで非常に興味深いことを発見しました。それらの接続強度分布は、抗不安-催眠薬であるジアゼパムという薬によって乱されるということがわかりました。また、これらの摂動は病理学的な状態でも明白だという証拠が大量にあります。この側面は根本的には注目され、病理学的な状態や遺伝子変異に関係する特徴を明らかにすることが可能になりました。

すごいですね!表現型や薬理学的の研究では、複数のサンプル間での結果の再現が重要です。オルガノイドアッセイで達成可能な再現性について教えてください。

分析技術によっては、オルガノイドの開発において高い再現性が得られると言われています。しかし、それでも、細胞数の分布や解剖学的な組織や他のパラメータなど、再現性に問題がある場合があります。そこで、細胞の層や細胞数の分布の細部にかかわらず、経時的に再現性のあるオルガノイドの特徴を抽出したいと考えました。

それを実現できたのは、MaxOneを使っての方法以外ではあり得ないと思っています。私たちはデータを報告する際、1つのオルガノイドに頼るのではなく、6~7個ものオルガノイドからの記録を発表するようにしています。それぞれの回路を組み立てると、全てのオルガノイドに共通する何かが見えてくるのです。それは、少数の強い結合と多数の弱い結合のような特徴です。その分布を見て曲線を描くと、分布の形はすべてのオルガノイドにある一般的な特徴が見られ、それは薬物や遺伝子の突然変異があると変化する可能性があることがわかったのです。

もう一つの特徴は、スパイク間インターバルの確率分布です。フィッティングを整理したところ、指数関数に合う分布もあれば、正規曲線に合う分布もあり、既知の分布に合わないものも多くあることがわかりました。スパイク間インターバルについてこのような確率分布を設定できるということは、遺伝学や薬学に移行したときに、また別のパラメータを探索することが可能ということです。

これらは今回の研究で抽出された独自のパラメータですね。
これらはどのように解釈されますか?

そうなんです、もうひとつ重要な課題は、オルガノイドがヒトの脳に見られる機能を再現しているかどうかということです。私たちは、これらの分布と、in vivo(生体内)で見られるものとの関連を見ることもできました。分布の中には、よりステレオタイプ化されたものもあり、これによって、回路をより詳細に分析し、機能的な結合と表現型セルタイプを細かく調べることができました。MaxOneプラットフォームは、人間の脳に不可能な方法で回路構造にアクセスすることを可能にし、その機会はまだまだ未開拓のものです。

MaxOneはアクティビティに基づいて異なるセルタイプを識別するために使用することができるかという質問をよく受けます。抽出されたこれらのパラメータは、セルタイプの分類に使用できるのでしょうか?

それは今後、ぜひとも開拓していきたいテーマです。プラットフォームに新たな技術を追加することで、それが可能になるかもしれません。例えば、チャネルロドプシンに沿ってセルタイプの特異的なプロモーターとオプトジェネティック(光遺伝学)のコンポーネントをプラットフォームに追加することも可能性の一つです。他にもいろいろなアプローチがありますが、これは私たちのこれからの成すべき課題です。

皆さんの研究が脳研究に新たな道を開いていると知り、その成功の一翼を担えることをたいへん光栄に思います。これからの発見を楽しみにしています。さて、これからのことをお伺いしたいのですが、MaxWell BiosystemsのHD-MEAにあったら良いなと思う機能(夢の機能)は何でしょうか?  

より多くのチャンネルを選べたら良いですよね。シンユエ・ユアンら(2020, Nature Communications)が報告したように、デュアルモードチップは19000の電極で同時に記録することができ、これは本当に素晴らしいことです。とはいえ、途方もない量のデータを記録するのではなく、その場でアクティビティスキャンをしてから、上位に構成されたチャネルを選択できると最高ですね!

あとは、統合的な光刺激も重要になってきますね。光遺伝学的な実験と高解像度システムを組み合わせることができるようになるでしょうね。

どうもありがとうございました。次回の製品開発会議では、必ずご意見を参考にさせていただきます。では、最後に趣味など個人的なことをお伺いさせてください。

私はサーファーで、よくサーフィンを楽しんでいます。研究室はビーチのすぐそばにあるので、よく行きますね。特に実験が期待通りにいかなかったとき(科学者なら誰でもこの気持ちを理解してくれるでしょう)には、たいていビーチに行きます。

サンタバーバラには、太平洋とサンタイネズ山脈という世界の2大最高峰があるので、私は山にサイクリングに行くことが大好きです。山は雄大で、そこからの眺めは絶景ですよ。


今日はどうもありがとうございました。私もですが、読者の
皆さんもコジック研究室この論文の発表とこれからの画期的な研究成果を楽しみにしています。

 

私たちMaxWell Biosystemsは、タール・シャーフ博士、ケニス・コジック教授、および共著者の皆様の、脳オルガノイド研究におけるMaxOne/MaxTwo HD-MEAプラットフォームの注目すべきアプリケーション例となるこの重要な研究成果をお祝いいたします。

ケンとタールにこの研究における個人的な洞察を伺わせていただことに、私たちは非常に感謝しています。オルガノイド研究の将来に向けて、研究者の皆さんがこの基本的な研究をどのように構築していくのかを注目しています。

これからも研究グループを紹介させていただきますので、楽しみにお待ちください。

引用

Tal Sharf, Tjitse van der Molen, Stella M.K. Glasauer, Elmer Guzman, Alessio P. Buccino, Gabriel Luna, Zhouwei Cheng, Morgane Audouard, Kamalini G. Ranasinghe, Kiwamu Kudo, Srikantan S. Nagarajan, Kenneth R. Tovar, Linda R. Petzold, Andreas Hierlemann, Paul K. Hansma, Kenneth S. Kosik, Human brain organoid networks, bioRxiv, September 2021.

bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.01.28.428643

Short Bio

Kenneth S. Kosik is the Harriman Professor of Neuroscience Research and Co-Director of the Neuroscience Research Institute at the University of California, Santa Barbara. Kosik Lab intends to create an intellectual setting conducive to the exploration of fundamental biological processes, particularly those related to the brain and its evolution, and is interested in the underlying molecular basis of plasticity, particularly how protein translation at the synapse affects learning and how impairments of plasticity lead to neurodegenerative diseases.

Tal Sharf is a Postdoctoral Reasearcher in Kosik Lab at the UC Santa Barbara. By utilizing techniques at the intersection of physical science and biology, Tal is developing devices and techniques to investigate neural circuitry with the aim to uncover general rules to explain how they malfunction with disease and mental illness.

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